よし亭よし亭

パンが膨らむメカニズム

どうしてパンは膨らむの?どうして焼くといいにおいがするの?なんてお子さんに質問されたらどう答えましょう。
パンはイーストが発酵するから膨らむのよ、焼くと表面が焦げていいにおいがするのよ、と答えても、じゃあどうしてイーストが発酵するの?どうして…と質問攻めにあってしまいそうです。

パン作りは何工程もありますが、どうしてそれらの工程を踏まえないと美味しいパンが焼けないのか?レシピにそう書いてあるから?そうではなく、美味しいパンができるまでのプロセスを少し細かく紐解いていきたいと思います。

捏ねる

通常のパンは、小麦粉・水・イースト・砂糖・塩・油脂を主成分として作ります。
小麦粉に水を加えて捏ねることでグルテンが形成されます。
さらに捏ねることでグルテンは薄い膜となりとなり、小麦粉中のデンプン粒や生地に取り込まれた気泡を抱え込み、網目状の繊維になります。この網目状の繊維は時間とともに緩んでしまいますが、塩は緩んだ繊維を引き締めます。

グルテンはどのように生成されるか

小麦粉には様々なたんぱく質が混在しています。
その中の80%は、グリアジンとグルテニンというたんぱく質と言われています。グリアジンは粘着性が高く伸びやすい反面弾力が弱く、グルテニンは粘着性は低く伸びにくい反面弾力が強い性質を持っています。
伸びが良いグリアジンと、弾力を持つグルテニン、この二つが結びつくと、双方の特徴を引き継いだグルテンという組織になります。

  • グリアジン+グルテニン=グルテン
  • グリアジンとグルテニンと水が合わさり、捏ねていくとグルテンが形成されます。

一次発酵

暖かい場所で、ラップをかけて空気を遮断することでイーストがエネルギー活動を始めます。生地の温度が上がるのはこのせいです。
イーストは生地中の糖分を分解し、炭酸ガス(二酸化炭素)とアルコールを発生させます。
グルテンは、イーストが発生させた炭酸ガスを包み込み、生地を膨張させます。

  • 一次発酵

イーストのアルコール発酵

イーストは、小麦粉や砂糖に含まれる糖を分解して、炭酸ガスとアルコールを生成します。これはエネルギーを発生させるために必要な代謝プロセスで、アルコール発酵と言います。イーストは酸素がないところで、アルコール発酵する代表的な生物です。

  • イーストのアルコール発酵
  • イーストは糖を栄養として活動し、アルコールと炭酸ガスを発生させます

酵素のアシスト

小麦粉にはアミラーゼとプロテアーゼという酵素が含まれています。
アミラーゼは、小麦粉中のでんぷんを糖類に分解し、イーストのアルコール発酵を助けます。砂糖が入っていないフランスパンでもイーストがアルコール発酵するのは、小麦粉中のアミラーゼのおかげです。プロテアーゼはたんぱく質分解酵素で、グルテンの伸びが良くなり、炭酸ガスを保持するのを助けます。

パンチ・ガス抜き

一般的に、パンチはあまり捏ねないパン(グルテンの形成が完全ではない、ハード系のパン)に用いられる手法です。
ただし、業務用のミキサーでないかぎり、手ごねで「捏ねすぎる」ということはありませんので、あらゆるパンでこの手法を取り入れています。パンチをすることで、生地が強化され、焼き上がりにボリュームが出ます。

パンチをするとボリュームが出る理由

  • フランスパンなど、折りたたみを行うパンチは、単純に捏ねの代わりになるので、グルテンの形成を促進する。
  • 生地中の炭酸ガスを逃がし、新しい空気を取り込むことでイーストが活性化する。
  • 気泡や生地の温度が端と中央では異なるので、均一にする。

二次発酵

パンチやガス抜きの工程で生地に圧力がかかると、炭酸ガスの一部は生地に溶解されます。二次発酵時にはそれらを核として新たな炭酸ガスが発生するので、一次発酵の時よりも早く発酵します。

焼成

予熱したオーブンに生地を入れ、生地の温度が60℃に達成するまではイーストが活動するので、生地は膨張し続けます。この状態を釜伸びと呼びます。
65℃以上になると、デンプンが膨潤・糊化(アルファ化)し、グルテンは凝固し始めます。80℃から95℃の間でデンプンの糊化はピーク粘度が保持されますが、これ以上温度が上昇すると、膨潤したデンプンが耐え切れず、崩壊してしまいます。つまり、デンプンの粘度が低下し、ガサガサ・カチカチの生地になります。
こうしてクラムの形成が進みますが、一方クラストではメイラード反応とカラメル化反応により、パン独特の焼き色と良い香りを生み出します。

糊化

糊化とは糊状になることです。
身近なところでは片栗粉も主成分がデンプンです。お料理にとろみをつけたいときに、片栗粉を水で溶いて使いますが、水で溶いているときにはサラサラしているのに、フライパンに入れて加熱されるととろみが出てきます。この「とろみ」もデンプンの糊化によるものです。

メイラード反応

糖とアミノ酸が結合し、様々な反応が起きると褐色物質と香ばしい香りの物質ができます。メイラード反応は常温でも起こり得ると言われていますが、155℃で最も活動が活発になります。
メイラード反応の代表的なものは、ステーキや焼き魚の焦げ目、ご飯のおこげなどです。

カラメル化反応

糖の水分が失われると、褐色物質と苦み物質が出来上がります。185℃以上でカラメル化が始まります。